小林可夢偉選手 スーパーフォーミュラSF14 インプレッションレポート







12月10、11日に岡山国際サーキットでスーパーフォーミュラのテストが実施された。このテストで大きな話題を呼んだのは、今季F1世界選手権に参戦していた小林可夢偉選手がSF14をドライブしたことだ。初めて走る車両にも関わらずトップタイムを記録し、実力の片鱗を見せてくれた。走行後の小林選手に、今回のテストについて話を聞いた。


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—今回は久々の国内での走行、国内レースの車両での走行でしたが、このテストに参加したきっかけを教えてください。

ピットアウトする小林可夢偉選手のSF14 今年のスーパーフォーミュラSF14はオフシーズンのテストの時から話題になっていて、海外でも評判で気になっていたフォーミュラカーです。現在、無所属の僕に、一度比較をしてみないかとトヨタのマーケティング関係者の方からのお話があり、今回試乗するチャンスを頂きました。岡山国際サーキットをフォーミュラカーで走るのは2003年のフォーミュラトヨタ開幕戦以来12年振りです。ブリヂストンタイヤは2010年以来。そもそも日本のレーシングカーに乗るというのもかなり久々だったので、いろいろと懐かしいなと思いながら走りました。ウィークデーなのに、寒い中たくさんのファンの方に来ていただいて本当に感謝しています。

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—2日間、ドライとレイン両方のコンディションで走りましたね。どんな走行プログラムだったんですか?

ウエットの中、走行する小林可夢偉選手のSF14 テストは2日間でしたが、2日目は雨という予報が最初からありました。今回のテストは新品のドライタイヤが6セット使えるということで、初日に5セット使いました。午前中に3セット。午後に2セットです。チームのセットアップテストを兼ねながら、僕自身の完熟走行を重ねていったのですが、午前中が終わるころには大分クルマの特徴を理解することが出来ました。各走行の周回数については必要なデータが獲れたら、あとは僕が好きなタイミングピットで戻ってもいいという感じでした。最後はちょっと予選の感覚で走ってみました。インラップの方がコンマ2秒は速かったり、最初のラップでロックして行き過ぎたり、タイヤの一番おいしいところはまだ使い切れていないと思います。1日を通してみつけたタイムを稼げるところをうまくまとめた感じです。
2日目は朝から雨。新品のウエットタイヤがなかったので、中古で走りはじめたんですが、これがどれだけ頑張ってもまったく温まらなくて、ひとり別次元の遅さでした(苦笑)。 すぐに違う中古のウエットに履きかえたら多少はまともになって、チームのセットアップテストを行いました。
お昼休みの間に雨が上がりましたが、路面はまだ濡れていたので、その後は浅溝と深溝のウエットタイヤを履き比べながらセットアップテストを続けて行きました。最後にドライを履きましたが、赤旗が出てしまったので、アタックは出来ませんでした。あのタイムは一発狙ったものではないです。赤旗がなかったら、1分13秒台には入ったんじゃないかと思います。みなさんが色々と期待していたのは分かりますが、個人的にはタイムとか順位はあんまり気にしていないです。

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—SF14での初走行ですが、その第一印象はいかがですか?

岡山国際サーキットを走行する小林可夢偉選手のSF14 最初にコースインした瞬間に、すごくまとまっているクルマで、よくできているなと感じました。走りはじめのこのセッティングのままでもいいんじゃないかと思うぐらいです。まあそれだけ今年のF1で乗っていたクルマは大変だったわけですけど。GP2がさらに大きくなったという感じですかね。クルマとしてはくせが少なくて非常に素直で、クルマに手を加えたら自分の思うとおりに反応してくれる。ドライバーとしてすごく楽しいクルマです。間違いなく今年僕が乗っていたF1とは違います。ある意味どんな人でも乗りやすいと思います。いろいろなドライバーが面白いと言っていた意味がよく分かりました。

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—F1とSF14の比較や小林選手のインプレッションも求められたようですが、そのあたりを少し聞かせてください。

スーパーフォーミュラのテストに参加した小林可夢偉選手 リヤタイヤが大きく感じました。フロントタイヤは細いかな。リヤが大きい分、縁石をコーナーによってはあまり乗せないようにしたり、使い方を変えて走っていました。
ステアリングはF1で使っていたものよりスイッチ類が少ないです。F1では1周を走る間にコーナー毎にブレーキバランスやディファレンシャルを変えたりしていました。さらにエンジニアからはERS(エネルギー回生システム)の回生・出力モードの指示が来るし、エンジンモードも非常に細かく指示がきます。
スーパーフォーミュラはF1の様に走行中のクルマのデータをライブで見るテレメトリーがないので、運転中はある意味暇でした(笑)。ステアリング上にいくつかスイッチがあるけれども、ドライバーが走行中に触るのはスロットルマップぐらい。
今回のテストでは、ディスプレイにラップタイム、ギヤ、ラップ数などが表示されていました。コントロールラインを通過するとラップタイムが更新されるようになっています。もしセクタータイムのデルタなども表示されるようになればもっとタイムを詰めることができると思いました。あと、コクピット脇にブレーキバランスのノブがあるんですけど、これも180度回さないといけない仕様で、しかもすぐモノコックの壁があるから、運転しながら180度回すのが難しかったですね。90度のスイッチとかだともうちょっと操作しやすいと思います。 SF14は電気式のパワステがついています。足回りのセッティングによって変わるので一概にどうとは言えないかもしれませんが、少なくとも僕が今回乗った車はF1よりも軽いぐらいに感じました。もうちょっとステアリングからのインフォメーションがあってもいいのですが、2013年に乗っていたフェラーリのGTも同じようなフィーリングだったので、こういうパワステが主流なのかもしれないですけど。

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—タイヤ、エンジン、ブレーキ、ギヤボックスについてはいかがですか?

ブリヂストンタイヤを確認する小林可夢偉選手 2010年以来のブリヂストンタイヤでしたが、とにかくどこまでも走れる感じです。タレが全然こない。F1のタイヤ(ピレリ製)は一回ホイールスピンやコースオフしてしまうともう2度とグリップが戻ってこないし、タレもくる。でもこのタイヤはたとえばちょっとミスしたなと思ってクールダウンしても、もう一回タイムを出しにいくときちんと反応してくれる。もちろんピークはあると思うので、そこがわかればもっとパフォーマンスが出せると思います。もしかすると車体に対してグリップが勝っているかもしれないなと思うぐらいです。
エンジンはインスタレーションラップから感じたんですが、アクセルをあけてちょっとしたら、すごく太いトルクがドンと来ます。今年のデータを見せてもらったら、アクセルを一回戻しているドライバーもいたようですね。ドライバビリティが改善されればもっとよくなると思います。実際にそこを2015年のエンジンでは改善しているそうなので、まだまだポテンシャルはあると思います。F1でも、ターボ+ブレーキと排気からの回生が加わり、ドライバビリティの向上をすごくやっていました。パワーは確かにF1よりはないです。でも向こうは回転数もずっと高いし、ERSがついていますからそれはしかたないと思いますよ。
F1と同じカーボンブレーキ。ブレンボは僕もF1で使っていたメーカーですがこちらについては特別なにかということはなかったですね。
ギヤボックスはパドルシフトの6速シーケンシャルですが、シームレスではないです。でもいい感じでつながっていたと思います。昨年乗っていたGTの方がもっとラグはあったかな。今年のF1は8速だったので、その感覚でストレートで6速よりまだ上のギヤがあると思ってパドルをカチカチ何回かひいてしまった時がありました(笑)。

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—では、SF14のドライビング面での総評をお聞かせください。

他の車両とともにテスト走行する小林可夢偉選手のSF14 僕は今年のF1ではとにかくクセがあるクルマを、なんとかまともに走らせるためにごまかして戦っていました。だからこのSF14のように、セッティングを変えるときちんと反応するクルマはドライバーとして乗っていてすごく楽しいです。さすが世界中の色々なカテゴリーを経験しているダラーラだなと思います。しかも、いまはまだこのクルマのすべてをやりつくしたというわけではなく、もっと速くなるポテンシャルを持っています。
ただ、どこまでクルマが耐えられるかですね。たとえばGP2の時、縁石を使いすぎてモノコックが剥離することがありました。そのため縁石を使うなと言われて、思うように速く走ることができなかった。まあそういうことはないようにしてほしいですね。
あと、乗りやすいしタイヤもいいので、ちょっとぐらい雑な運転をして、ホイールスピンさせたりしても、この車だとまたやり直せてしまう。それに慣れてしまうと、たとえばいまのF1のように本当に1発勝負というときにはしっかりとタイムを出せないかもしれないです。だからこのクルマはすごく許容範囲が大きいですけど、運転するときにドライバーがミスを絶対しないと意識していけばいいかもしれません。

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—では最後に今回のテストを振り返って一言お願いします。

ファンサービスを行う小林可夢偉選手 今回非常に楽しく走ることができました。ただ、来年についてはいろいろ考えているところです。正直なところ来年以降でもF1のチャンスがあったらまた目指したいという気持ちもありますが、どのような形になるにしても僕は日本のモータースポーツをもっと盛り上げたいと思っています。今回あらためて日本に帰ってきて日本のファンと一緒に楽しむことも非常に大切なことだと実感しました。2日間無事に試乗できて本当によかったです。今回オファーしてくださったトヨタの関係者様、一緒に仕事をしてくださったチームルマン様、そしてウィークデーにもかかわらず岡山国際サーキットに集まって頂いた大勢のファンの皆様の応援にあらためて感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

小林可夢偉